【ひとりごと】「もう来ない」は〝褒め言葉〟?
「良くなるとみんな来なくなっちゃうんですよね」
「そうだよね。俺もこれで来ないしね」
そう言って互いに笑い合う。
これは約五年ぶりに来たお客さんとの、二回目の施術中の会話だ。
「自給自足で農業をやってるんだけどね。ちょっと頑張りすぎちゃって」
久しぶりにウチに来た理由を、お客さんはそう言っていた。まだやらなきゃいけない作業が残っているんだけど、さすがに体が辛い……と。
けど二回目に来た時に開口一番、こうも言ってくれた。
「おかげで残りの作業もできたよ」
だから作業後のメンテナンスに来たのだ、と。
お客さんから聞く「もう来ない」という言葉は結構ショックだ。それは次の来客に繋がらないということだから。小さいながらも店舗を経営する身としてはツライものがある。
この業界に限った話ではないが、こういう商売はリピーターありきなところがある。商品(施術) を何度も買って(サービスを受けて)くれるのが前提で次回予約をとったり、回数券を売ったりする。
あるいはサプリメントなどの物販をしているところも多い。サプリメントが無くなればまた買いに来店してくれるからだ。
けど、ウチはそういったことはしていない。当たり前のように次回の予約をとったりしないし、回数券も売らない。もちろん物販もしない。
売るのは腕のみ。
そういうこだわりでやっている。
その代わりというわけではないが、ウチには少し変わった料金システムがある。最初に指定する料金を払って貰う事で一定期間割安になるというシステム。要するに集中して通いやすいようにしてあるのだ。
このお客さんはそれを利用して、作業前と作業後の計二回を割安で済ますようにしたのだった。だから余計に、二回で来なくなってしまうのは経営的に……結構ツライ。
でも手技療法家としてみると「もう来ない」というのは褒め言葉になる。
だって一回目の施術で農作業が出来なかったほど辛かった体が作業できるようになり、二回目でもう来なくてもいいと思えるほど調子が戻っているのだから。
もちろん会話というのは互いのコミュニケーションで成立するものだ。会話の流れによっては「もう来ない」は決別の意味を含むネガティブな言葉として使われることもある。というか、ほとんどの場合そうだ。
しかし今回の「もう来ない」は違う。それは最初の会話の流れを見てもらえばわかると思う。なによりネガティブな意味合いで発せられた言葉をポジティブに変換できるほど、僕はメンタルが強くない(笑)
実のところウチは「良くなったので来ない」というお客さんが多い。定期的に通ってくれる人も確かにいる。けど、どちらかと言うと良くなったら足が遠のき、しばらくして唐突にやって来る人の方が多い。今回のお客さんもそうだ。
それだと正直なハナシ儲けは薄い。「良くなったので来ない」というのは手技療法家としては誇るべきことだが、経営側で考えるとツライのだ。
でも、それもアリかなと思っている。
いまウチで掲げてるのは「提案するのはハイブリット車のような生活」だ。この場合「施術」が燃料で「運動」が電気で、ウチに来て「施術を受ける」ことが給油ということになる。
施術に加え運動指導と言う形で自らも健康になるための努力をしてもらう。教えた運動をすることで、自ら健康管理に役立てるのだ。
そうなると必然的にウチのような整体に通う頻度は減ることになる。ハイブリット車が燃費が良くて給油回数が減るのと同じだ。
この業界、商売っ気の強い治療院は多い。或いは何でもかんでも〝施術を受けるだけ〟で完結する(いわゆるゴッドハンド)のをウリにしているお店とかも多い。
そんな中でウチみたいなお店があったっていいじゃないか。
回数券などを買わせて縛り付けるのではなく、お客さんのタイミングで通ってもらう(当然、どのくらいの頻度や回数通うかの提案はする)
そしてお客さんにも努力してもらい、一緒に根治を目指す(もちろん施術の手は一切抜かない)
体というのは健康であれば当たり前のように動いてくれる。その当たり前が、実はすごいことなのだ。この「当たり前」は「すごい」ということに気づいている人は、案外少ない。
だからそれに気づく為にも施術で体を整えて少しでも楽になり、プラスして自分の努力によって体が変わっていくことを実感してもらいたい。
これをウチでは「他力に頼り自力をつける」という言い方をしている。○引き療法の師匠の言葉だ(※2020年9月より讃岐骨法」を軸として補助で「手技による筋肉の調整」を提供しています)。
そりゃまぁ、短いスパンで定期的に通ってくれるお客さんが多くいた方が断然いい。生活もあるから儲けもないと困る。なにより僕はお金が大好きだ(笑)
でも当たり前に気づき自分の体と真摯に向き合いその結果、改善する。そうなったことで来客の頻度が減るのなら、それはそれで良いことじゃないかと思うのだ。
ウチの儲けが薄いのなんてお客さんには関係のないことだ。
そうそう。今回のお客さんと帰り際にこんな会話も交わした。
「当分来ないと思うけど、宣伝はしとくよ」
「ぜひ、お願いします」
この繋がりで次はどんなお客さんがやってくるのか、実に楽しみである。
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